僧帽弁閉鎖不全症
僧房弁閉鎖不全症(MR)は、犬の心疾患の中ではもっとも多く見られるもので、高齢の小型犬で発症が多いです。
心臓の左心房と左心室の間にある僧房弁が変性し、血液の逆流が起こる病気です。
当院では、ACVIM(アメリカ獣医内科学会)のガイドラインに沿って、治療を行っています。
●好発犬種
チワワ、マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、キャバリアなどの小型犬
●症状
初期段階では無症状のことが多く、聴診で心雑音(血液が逆流する音)が聴取されます。
進行すると、散歩を嫌がったり、咳をしたり、興奮時に倒れたりする症状が見られることがあります。
さらに重症になると、呼吸困難、チアノーゼ、肺水腫(肺に水がたまり苦しくなる)などの症状を起こし、死に至る場合もあります。
●ステージ分類
ステージA
心雑音などの異常は認められていないがリスクのある症例。
(キャバリアや、その他の好発犬種)
ステージB1
心臓に構造的異常はあるが、心不全の症状は現れていない。
心拡大は認められない、あるいは基準に満たない。
ステージB2
基準を満たす心拡大が認められる。
・VHS(心臓椎骨サイズ) > 10.5
・LA/Ao(左心房/大動脈径比) ≧ 1.6
・LVIDDN(体重標準化左室拡張期径) ≧ 1.7
このステージから投薬の有効性が認められています。
ステージC
肺水腫など心不全の症状を起こしている、または起こしたことがある。
ステージD
標準的な治療に反応しない重症な状態。
●検査
・レントゲン検査
心臓のサイズ(VHS、VLASなど)や形状を評価し、肺水腫の有無を確認します。
・超音波検査
心臓内腔のサイズ(LA/Ao、LVIDDNなど)、各部位の血流速度、心臓の動きを評価します。
それぞれの数値の変化により、治療内容を調整します。
・血圧測定
前肢・後肢・尾のいずれかで測定し、高血圧になっていないか確認します。
・血液検査
心房・心室・心筋の異常を検出するバイオマーカーや、腎臓など他臓器の機能を測定します。
●治療
・内科療法
薬剤で症状を管理し、心臓の負担を軽減させます。
強心薬、ACE阻害薬、降圧剤、利尿剤、βブロッカーなどを使用します。
心臓の状態を見て、適切な薬剤を選択します。
・食事管理
心疾患用に特別に調整された療法食が有効です。
心臓負担を軽減させるため、ナトリウム量を制限し、L-カルニチン・タウリン・EPA・DHAなどが配合されています。
・外科療法
根治的な治療を目指すには外科手術が必要であり、選択される事も徐々に増えてきました。
ただし、手術が実施できるのは限られた一部の専門病院なので、ご希望の場合はご紹介いたします。
●治療のポイント
臨床試験データによると、ステージB2(心臓に異常があり心拡大がある状態)から投薬開始すると、うっ血性心不全の発症を15カ月間遅らせることができます。
ステージB1からB2に進行するタイミングを適切に捉え、早期に治療開始するためには、定期的な画像検査(レントゲン検査、超音波検査)が必須です。
当院では、投薬していない場合は6ヵ月ごとの定期検査を、投薬開始している場合は3ヵ月ごとの定期検査を推奨しています。
心疾患に関して、ご心配事があればお気軽にご相談ください。
玉川学園犬猫病院
院長 綿貫貴明